熱電対温度計 (3)
1. 電圧計算方式の K熱電対温度計(0〜500℃):
(1) ハードとソフトの作成:
K熱電対はまだましな方で、一般に、熱電対のゼーベック係数は、温度によって大きく変化している。
そのため、通常は 熱電対起電力の入力を 多項式で計算して温度を算出する方法がとられている。
この、熱起電力(V、or μV)を入力して温度(℃)を算出する多項式は、いくつか出されているので、この電圧計算方式を使用することにした。
例によって、S-8120C(負勾配の測温 I C)で、冷接点側の電圧勾配を補償し、零調VR(500Ω)で 余分な電圧の切片を調節して、 室温補正をした純粋なK熱電対の起電力として
高精度計装アンプの差動入力に入れる。
AD620でゲイン調整VRにより 約8倍、次の AD822ANZ(高精度単電源オペアンプ)で約10倍の差動増幅を行ない、+側だけを トータル 約80倍に電圧増幅する。(100倍にすると、1000℃以上が出ない為)
* この基板では、AD620のマイナス側も、反転して 増幅する回路で 付け加えた。マイナス温度は、この同じ基板で
2.のプログラムで対応。PICkitで書き換える。
キャリブレーション端子は浮動入力なので、 COMへ落とす抵抗(各470kΩ)を入れ、計装アンプのバイアス電流を確保した。
これを、MCP3208(12ビットADコンバーター)の CH0に入れ、AD変換し、PIC(PIC18F2550)にデジタルで送って、熱電対起電力のmV単位の電圧の80倍の値を4桁の数字に直して、USBでPCに送る。 12ビットなので、max 4096 となり、VREF = 4.096V によって mV単位の数値となる。 (* PICマイコンの多くは10ビットのADコンバーターでやや粗いので、12ビットで4倍細かく計算できる。
ただし、PCの温度出力は〇〇〇〇℃で1℃単位。)
VREFには 電圧リファレンスIC(4.096V)を入れたが、測定値で4.085V程度であった。これはゲイン抵抗 RGで調整できるレベル。
(COM電圧の分割抵抗の間に 1kΩのVRを入れたが、これはほとんど効かなかった。)
ノイズ対策として、熱電対のシールド(シールド網組チューブ)、ADコンバーターの入り口に22μFの積層セラコン挿入、また、PIC内プログラムで 10回計測の平均を取った。
PCでは、とりあえず、0−500℃の表示とし、送られてきた4桁の数字を実数(Double変数)に直し、80000.0で割って V単位の電圧とし、ここで NBS多項式のタイプKの8次式(↓表)の計算を行なって 温度(4桁の整数)を算出し、折れ線グラフに描画する。(横軸は時間、約2.1秒+α ごとにプロット)



PICから12ビットADコンバーターへの入出力は、PCからの ”1”コマンドごとに、1〜19のCKをADコンに送り、1〜2CKで /CSをH→Lにして計測スタートし、3〜5CKで CH0を選択((D2、D1、D0) = (0、0、0))し、8〜19CKで CK が H になるタイミングで B=1〜12 の 12bitのデータを採取する。
この操作を10回繰り返して10で割って、10回平均をとり、PCに送る。
PICプログラム(PIC18F2550)、
K:0−500℃表示: PCプログラム(VB2010)、グラフィック、モジュール; .exeファイル・リンク
(2) 調整: 熱起電力表


@ (@はやらなくても良いが、)ADコンバーター以降の直線精度の確認を行う。 a 点: ADコンバーター入力に、各温度の熱電対起電力(mV)を正確に80倍した電圧を入れ、PC表示で何℃になるかを測定した。
mV発生器は、1.5V乾電池を、33kΩと 1kΩポテンショメータで内分して mV電圧を供給した。高精度の卓上デジタル電圧計(OWON XDM1000)を用いて 同時測定しながら行なった。(テスターは不可)
結果は、0−500℃の範囲で1℃以内に十分収まり、ADコンバーター以降(ADコンバーターと参照電圧、PC内のmV計算式 等)はすべてOKであることを確認した。 ADコンバーター(MCP3208)の精度は、すでに電圧が十分高いので、10℃程度の低温領域相当の電圧においても問題なかった。 0mV(=ICを抜いて短絡)を入れると 0℃になる。(グラフ@)
A 問題は 初段アンプのアナログ・アンプ部で、計装アンプを AD620ANZ、LT1167、INA128P(テキサス・インスツルメンツ)の3つについて差し替えて、それぞれ、b 点: キャリブレーション入力に、mV発生器からの 各温度の熱電対起電力(mV)を入力し、表示されるPC温度を測定して、アンプの精度を比較した。ここで、おおよそのゲイン調整をおこなう。
結果は、アンプのヒステリシスのため、すべて10℃以下では大きく歪み、AD620は
300−400℃間と高温域で、 LT1167は 100−300℃間と高温域で
それぞれ歪み、唯一、I NA128 だけが、約10℃付近から500℃まで 凵≠P〜3℃までの一定値の減り方で、ゲインVR(VRG)を調整し±1℃程度の直線性の勾配にできそうなことが分かった。 (切片の調整は、A−2、Bで行なう。)
* ただし、温度範囲をもっと限定すれば、AD620、LT1167も用いることができると思われる。


A−1 INA128P(テキサス・インスツルメンツ)について、10℃設定(0.397mV印加)で 24℃、 500℃設定(20.64mV印加)で
506℃で、10℃から500℃までの凾フ総和が −7 だったので、506
+ 7 = 513℃になるように RGを調整した。 → すると、100℃(4.095mV)で 115℃、 500℃(20.64mV)で
513℃となったので、再度 515℃になるように RGを調整。 → 100℃(4.095mV)で 115℃となって、RG による勾配設定により 切片が同じ(15℃)になった。 ここでもう一度、0℃から500℃までのデータを取った。
すると、ほぼ0℃〜500℃まで、±1℃以内に収まる直線になった。 (* 500℃〜1000℃では、勾配が変わってくるので、別途
RGの調整が必要。)

A−2 次に、熱電対を抜いて、この熱電対入力端子から、各温度相当の電圧(mV)を印加して、主に 切片の零調VRを調整しようとしたが、露出部が大きいため、ふらつきが大きいので データにならず、大まかな調整にとどめた。(ゲインRGは動かさず)
B 最後に、シールドした K熱電対を差し込み、実際に、純粋な金属の凝固点で
最終調整を行なう。
まず、低温側は、ガラス管に入れた熱電対を、棒温度計と共に5〜30℃程度の常温水に、十分攪拌しながら漬けて(スターラーは使わない)、零調VR(切片)の調整を正確に行なう。水温はなるべく0℃に近いほうが、単純にRGで調整ができるので 望ましい。 ここでは、(冬季で)8℃(棒温度計)なので、零調を合わせて PC温度で8℃にした。
次に、熱電対をアルミナ保護管に入れ、 亜鉛(Zn 試薬1級(99%以上)、mp.420℃)を溶融して凝固温度を測定しながら、PC表示温度が420℃になるように、最終的にゲインVR(RG)を調整する。 (A−1では、出力の切片を合わせただけで、入力の切片が一定とは限らないため。) ここでは、凝固点を測って430℃のところを、測りながら RGを下げて420℃にした。
そして、スズ(Sn 99.9%、mp.232℃)で測定し、確かに232℃になっていることを確認した。(グラフB、C)
(注意点)
* 高周波炉による加熱時は、熱電対のプラグを外して、誘導電流が流入するのを防ぐ。
* 凝固点は、平坦になった前半部を測る。(終わりのほうは、不純物が液層に濃縮して凝固点を下げ、また、容器の伝熱によってもダレる。)
* 熱電対は、ミニチュアプラグ付きのK熱電対(高温用(ガラス繊維被覆)、秋月)を アルミナ保護管に入れて、容器の底より1〜2cmの位置に溶接玉が来るようにセットする。 低温用熱電対(ビニール被覆?)は高温では溶けて使えない。 どちらも、プラグの補償合金により ケース内部のねじ部までが熱電対相当で、ここが冷接点となる。
* 熱電対の冷接点(ねじ部)と S-8120C(温度センサ・−勾配)とは、完全に同じ温度(室温)になっていなければならない。 プラグ部を熱源に近づけたり、測定途中でエアコンやストーブなどをつける等をすると、その傍熱で1〜数℃変動するので注意。

C さらに、INA128P(テキサス・インスツルメンツ)は 100℃以下も直線性が良いので、0〜100℃のグラフでも測定してみた。 湯と棒温度計で測定して確認すると、低温ほど低めにPC表示された。
それは、Bで 最終的にRG を動かしたためで、再度、キャリブレーションでRG の調整を行なう必要となった。
* 湯に入れての測定は、スターラーを回したままでは 電磁ノイズによるふらつきが大きい(±2〜4℃も)ので、2−3分間攪拌して温度(棒温度計+熱電対入りのガラス管)が均一になったところで、一旦
スターラーを止めて測定する。 また、湯は、蒸気がガラス繊維被覆内の線に結露して出力が低下するので、低温用の被覆がプラスチックの熱電対を用いた。
K:0−100℃表示: .exeファイル・リンク ・・・・ PC内部で1/80000倍(V)してから計算
(参考) 中温用PCグラフ ・・・ K:300−800℃: .exeファイル・リンク
高温用PCグラフ ・・・ K:700−1200℃: .exeファイル・リンク
2. マイナス温度用の K 熱電対温度計(−100〜0℃):
INA128P(テキサス・インスツルメンツ)の直線性が良く、100℃以下も測れそうなので、マイナス100℃までのグラフを作り、1.と同じ装置を兼用にして、ドライアイスの昇華点付近(約−78.5℃、ただし溶媒によってかなり異なる)で合わせることを目標にして作製した。(* 液体窒素(b.p.−196℃、77k)も含めると、−200〜0℃のグラフになる。)
12ビットADコンバーターの CH1の選択は、(D2、D1、D0) = (0、0、1) で行なう。
PICプログラムは MCP3208のCH1に入った+電圧を読み取るように変更。 PCプログラムは、計算式を K マイナス温度用(−200〜0℃)に変え、グラフも−100〜0℃に変更した。(4桁数字(mV)×(−1000.0)/80.0=−μV入力で計算、 ℃出力) グラフは、0〜100℃用をそのままY方向に−100℃シフトする。
PICプログラム(PIC18F2550)、
K:0〜−100℃表示: PCプログラム(VB2010); .exeファイル・リンク
・・・・ PC内部で−1000/80倍(μV)してから計算

(調整)
キャリブレーションは、1.と同様に行なった。 まず−100℃相当の起電力(mV)=−3.554mV を キャリブレーション端子bに入れて(±逆)、ゲイン抵抗 RG で−100℃に合わせ、各温度相当のmVで PC表示温度を記録する。 すると、20℃設定において累積偏差凾ェ−14℃になったので、次に、−100℃入力で
−100−(−14)=−86℃になるように ゲイン抵抗 RG を調整し、各温度相当のmVで PC表示温度を取ると、切片が−14℃の、きれいな直線になった。
それから 実測する。 氷と塩(棒温度計で測って約−20℃前後)で その温度の表示となるように、零調VRで 切片を調整する。 次に、ドライアイスで覆ったドライアイス−エタノール(約−72℃前後)に−80〜+50℃の棒温度計と共に並べて入れてゲインVRで微調整する。 さらに、氷と塩を測って 切片を調整し、再び −72℃に下げてゲインを合わせる。
(* ドライアイスはスーパーなどで アイスの保冷剤としてもらう量で充分。そのビニール袋に少量のエタノールを入れる。)

3. R 熱電対温度計:
R 熱電対温度計(これに近い S 熱電対も、)は、空気中などの酸化性雰囲気や より高温での使用が可能で、あらゆる工業で一般的に用いられているが、起電力が K の約4分の一程度しかなく、特に低温領域の直線性の良い増幅が困難であり、また白金線、白金・13%ロジウム線は高価なので、アマチュアレベルの製作にはあまり一般的ではなかった。
そのため、Kほどの種類のものが売られていなく、白金線、白金‐13%ロジウム線は手持ちのを使い、2穴アルミナ管(通称”ブタッ鼻”)に通し、先端をカーボンアークで溶接した。 白金線は柔らかく、切れやすいので取り扱い注意。
R/S用のミニチュア・プラグ、ソケット(モノタロウ)、R補償導線(モノタロウ)は購入し、接続部は作製した。 補償導線は2mと長いので、1mに切ってソケットに接続した。
Kと同様に 全体をシールド網組に通し、熱電対の先端部はアルミナ保護管に入れた。 (シース熱電対は値段が高い)




PICプログラムは 1.と同じ
R:600〜1100℃表示: PCプログラム(VB2010); .exeファイル・リンク
・・・・ PC内部で1000/300倍(μV)してから計算
(調整)
b点(キャリブレーション端)から 各温度に対するR熱電対の起電力分を入力し、ゲインVR(RG)を大体合わせて、PCグラフ(250〜1200℃用の計算式)の表示温度を プロットして、アンプの直線性を見る。 すると、600〜1200℃で直線性が良い(±1℃以内)ことが分かった。
そこで、実際に、アルミニウム(Al、mp.660℃)を溶融して、低温側の 切片を 零調VRを調整して 合わせ、次に、銅(Cu、mp.1085℃)を溶融して 高温側でゲインVRを微調整する。
・ 高周波炉での加熱時は、熱電対と補償導線の間にあるコネクタを 外しておく。
・ 銅の溶融時は 酸化防止のため黒鉛粉を少し入れる。(酸素を吸収すると凝固点が下がる為)
・ 高融点の物質の場合、熱放散が大きいので、溶質の量を増やして行なったほうが良い。 熱電対の玉の位置も影響が大きい(中心かつ底から1〜2cm)。(* Cuの量は約60gと少なかったので、平坦にならなかった。 次回、量を増やして測定予定。)


(追記、3/10)
銅(99.9%)の量を80gに増やしたが、熱電対の入り方が外側に偏っていたので
平坦部は少なかった。 変曲点を mp.1085℃とした。
